仕事ってどんなものかしら?
上司の背中:威圧感や不機嫌さで人を支配する
ワクワク新卒。労働とはどんなものかしら。
採用してくれた会社、配属は希望の東京、ルンルンルン。
最初の配属は本社ではなく、所謂現場。OJTで学んでねスタイル。
スーツは着ない。バイトみたいなシフト制。
簡単だが量が多い事務作業。
朝から晩までの電話応対。
人力でなんでもやりすぎだと感じるほどAntiデジタル。
毎日12時間以上働いた。
思っていた東京ライフとは全然違った。ショックというより、日々ちゃんと仕事を覚えて、ちゃんとこなせるようになるように必死だった。
そのときは、目の前の作業をきちんとこなすことが、一番求められていること、仕事をして認められるための唯一の道と思っていた。
最初の上司は、正当な理由もなく怖く不機嫌を撒き散らし怒鳴る人だった。
喧嘩っぱやい元ヤン。
よく人を殴ったり、蹴ったりした話を自慢げにしていた。
私の前任の若手も殴ったらしい。なんやそれ。
職場で一番偉いのが彼で、誰も彼に逆らえなかった。職場の他の社員達からは怖がられ、そしてそれ以上に嫌われていた。
上司は彼らを従わせるために、いつも怒鳴ったり、気に食わない社員に手を上げることもあるらしかった。醜聞。
配属先の空気は毎日とても重苦しかった。
上司の機嫌はどこで変わるかわからなかった。怒るポイントも笑うポイントも極めて謎だった。
訳もわからず、始終不機嫌な日も多かった。
職場では一日中息を殺した。
足音を立てるのも憚られるくらいの空気に耐えなければならなかった。
昔から職場にいる先輩達ですら怯えながら働いている、なので私はもっと、怯えた。
私は、怖さや怒られたくなさ、それに面倒臭さから、生真面目に彼の言うことを聞いて働いていた。
が、それは上司受けする面白みのある性格ではなかったようだ。
男社会的なものとの親和性が低かった。
『見どころ』がなかったのか、上司は私の接し方に困っているように見えた。
少し腫れ物。まぁ、怒鳴り散らかされるよりいい。
彼のタイプとしては、部下が気に食わないことをするとガツンと怒鳴って、自分の立場を誇示し主従関係を作って支配したい、と思っていたのだろう。
自分がイラついた時は発散できて、それでも自分に懐く子分(本当は渋々従っているだけだろうが)。
だが、怒られたくない私はミスがないようにミスがないようにと細かく動き、生真面目で愛嬌がなかった。
そんな私も一度だけ、いきなり怒鳴られたことがある。
上司に何か聞かれて、何のことを言っているかわからず、聞き返したら、いきなり。
『え?』でしかなかった。
圧倒的『ポカン』。
そのとき、仕事ってこんなにいきなり感情をむき出しにするんだ、仕事ってこんなイライラしてて、重苦しいものなんだと誤った認識が芽生えた。
仕事に慣れてくると、いろいろな所から情報が入るようになった。その上司はパワハラ気質で過去にも問題を起こしている、が、現在営業成績が良いため会社としては評価されている、とのことだった。
会社は道徳で動いている訳ではないと知った。
半年ほど経った頃には、誤った『仕事たるや』、がインストールされた私が出来上がっていた。
仕事とは、目の前の作業に忙殺され、一日一日単発で終わっていくもの。
予め決められたやり方で正しく処理すること。
後、上司の顔色は常に伺い、上司をキレさせないように丁重に扱う、上司に意見をしたり、上司に気軽に話しかけてはいけないということ。
今になって『最初の職場の、最初の上司』は仕事を始めた若者に多大な影響を与えると知る。
後々、アンインストールするのは容易くはない。
私も別の配属先に移ることになった。ラッキー。
配属先変更の理由は、別の配属先の同期が上司とトラブルを起こしたからだった。
あぁ、それなら私もトラブル抱えてるのに、会社の目は節穴だなと思った。
パワーも、セクシャルも
前の職場には、私の代わりに女の子が配属された。
その子には、元ヤン上司は優しく接しているとの風の噂。
職場の先輩曰く、上司の私と彼女への対応の違いは可哀想なほど違うらしい。
元ヤン上司はその女の子には、仕事上の専門的なことを個別に時間を使って教えているとのことだった。
私は個別に時間を使って何かを教えてもらったことなど、一日たりともなかった。
実際、彼女は私よりずっと良い評価をつけてもらっていた。
あんなに硬派なフリして、暴力や威圧感で人を支配してたのに、綺麗な女は贔屓もするし、優しく教えるんだ。ダサ。
仕事の矜持を語られたこともあったし、恐怖で言うことを聞かない者を支配するのも、マネジメントの方法の一つとしてはあるのかな、なんて思っていたが、彼の浅さに失望した。
聞いてもないのに、仕事の矜持を語る人間は信用ならない、薄い。
その後、上司はその女の子に交際を迫っていると知った。不貞のお誘い。
その上司に対して、圧倒的に嫌悪感を感じた。
入社1年目にして、パワハラとセクハラを両方見せられた。
社会人の洗礼。
仕事も結局、ウマが合うかどうかなのか
月日が経ち、また異動した。
同日に同期と2名で配属。
新しい上司は、部下達から明確にヘイトを集めていた。
仕事って、こんなに部下が結託して上司を総スカンしても良いもんなんだ、と思うくらいに明確に。
部下達は、新しく配属された私達も敵視していた。
そんな中、同日配属の子は上司と仲が良くなっていった。
上司としては、敵ばかりの中、自分の味方が現れたのが嬉しかったのだろう。日に日に仲良くなる彼ら。
私は、と言えば、目の前にある作業をただただ正確に高速に処理できるように努力していた。特に手を止めて、上司と喋ることはしていなかった。
案の定、仲良くなった同日配属の子の方が評価が高かった。
だがこの子の仕事のリカバリーをしていたのは私だった。
あぁ、なんて私は人間関係を作るのが下手くそなんだろう、上司に好かれなければ本当に評価されない。
どうすれば、上司から好かれるんだろう。仕事で評価されるってなんだ、答えがわからず、目の前が真っ暗になった。
評価される人の基準が分からない/生き残るためには無責任になるべし
また別の部署での話。
前任と交代で担当者一人、私だけがその業務をするらしい。
1から10までやったことのない仕事。
今までやってきた誰でもできる事務作業とは違った類の専門業務。
新しく何かを始めると言うより、前後関係の把握が必要なややこしい事務なのに前任がいない……
不安で、何が分からないかも分からない状況。
前任者は確かにいた、が、1日も引き継ぎなく異動。
会社の運営に疑問を感じずにはいれず、何度目かの失望。慣れっこだ。
JTCとは言えないが、ベンチャーでもない。
周りを見ると、同期や先輩は、同じ業務に携わる上司の下についていた。
私には業務を理解できる上司や同僚がいなかった。
緊急対応が必要なアクシデントが起こったとき、担当役員に報連相するも、『難しいことわかんないから、君が決めて』と言われる始末。
虚無。孤独。押し付けられる責任。
分からないことが分からないレベルの深い闇の中、助けてくれる人も、話が少しでもわかる人もいない。
ふと横を見ると、会社の中では『仕事ができる』と言われる上司と、後輩が和気藹々と歓談。
孤独や不安を抱えながら机に向き合う私、鮮やかな対比。
今の仕事をもう少しできるようになったら、さっさと辞めよ。心に決めた瞬間。
担当役員からの私の評価は悪くなかった。
ただ、業務のことを分かっていない中で評価されるので、何が良くて、何が悪いかのフィードバックがふんわりゆるふわ。
何も合点が行かなかった。
とりあえず、会社で分かる人がいないめんどくさそうな業務を、新人一人ひとりでやってたようだから評価したというのが見え透いていた。
担当役員らは社内でのコネ作りのため、業務中にいつもゴルフや飲み会の計画をしていた。
ゴシップや人事異動、ひどい時は女子社員の誰が可愛いかといった話ばかりしていて、仕事をしていなかった。
こういう人が管理職として、評価される会社では私は評価されないだろうな。見方を変えると安泰でいい会社って言える、でも長くは続かないだろうな。いつもそう思っていた。
彼らは物事について話すとき、支離滅裂でどうしてその結論になったのかが分からない話を繰り返した。よく主語がない話をされた。
話し合いにならずに、聞いている質問の答えが返って来ずに、諦めることばかりだった。
そのうち私に上司がついた。
彼も未経験で、私が彼に仕事を教える羽目になった。
彼が他の部門から責められると、『「私」君がそう言ったから・・・』といつも私のせいにして逃げた。
更に担当役員も変わった。
会社でも悪評が高い定年の近い男。サイコパス。
数日働いて、私はわかった。彼は物忘れが激しい。
自分の言ったことをきちんと覚えてられない、何でも朝令暮改というタイプ。
それに、直ぐ怒鳴り、怒り散らかすタイプ。プライドの高い男が高齢になり、感情のコントロールができないという様子だった。
私が見るに、彼自身少しは自分がボケ始めていることや衰え始めていることに気がついているが、権力を維持するためにもボケを部下に悟られないように、勢いと恐怖で支配すると決めて動いているようだった。
彼は、ほぼ毎日部下達を始業前からオフィス全体に響き渡るほど怒鳴り散らかしていた。
部下のやることなすこと全てを否定し、最終的には『お前はダメだ』と人格を否定するほどだった。
1日中聞いていると、こちらの気が滅入るほど。
人前で怒鳴られ続けた私の上司は、日に日に自信を失い萎縮して行くばかりだった。
あぁ、こういう人が出世するんだ。大きな声でマウントすると仕事できるって会社は判断するんだ。
合点が言った。私は声が小さく、オシが弱い。なるほど。
バイバイ。
経験の少なさから、苦戦しつつもなんとか転職先が決まった。
それから数年して、その会社は潰れた。やめて良かった。(続く)